根本水門

京成国府台駅からほど近い場所にひとつの水門がある。「根本水門」と呼ばれるこの場所は、市川の市街地を流れる真間川の江戸川からの起点で、まあ何の変哲も無い小さな水門なのだが、僕はここに忘れられない思い出がある。

僕が鯉釣りデビューを果たしたのは小学5年生の時。その場所がこの根本水門だった。当時は漫画「釣りキチ三平」が大ブームで、ずっとザリガニ釣り専門だったこの僕も、三平を崇拝する友達2人に誘われ、当時住んでいた鎌ケ谷市からこの根本水門までチャリではるばるやってきたのだ。

朝早くに着いた僕らは、運良く水門のすぐ横に陣取る事が出来た。すると徐々に周りは釣り人でいっぱいになった。当時ここは有名な釣り場だったのだ。それからしばらくして友達をひとり残してトイレに行って戻ると、僕らがいた場所で知らないおじさんが釣り糸を垂れており、待っていた友達がその横で泣いていた。聞くと場所を横取りされたと言う。僕はそのおじさんに「ちょっとトイレに行っていただけです」と言ったが「いなかったお前たちが悪い」と凄まれ、怖くなった僕はそれ以上何も言えず、結局おじさんがそこを退くことはなかった。ガキである僕らはただ無力だった。

現在、僕は江戸川河川敷でのトレーニングをライフワークとしている。その際、この根本水門を通る度、僕は当時あの出来事があったその後の事を思い出す。あの後、事の一部始終を見ていた釣り人からジュースやお菓子を貰い、またある人は僕らの為に場所をつめてくれ、その横にいたお兄さんからは仕掛けや釣り方の極意を事細かく教えて貰った。結局あの日は1匹も釣れなかったが、帰りは皆笑顔だったと僕は記憶している。

今、僕が根本水門の先にある市川市内の真間川のほとりに住み、今も様々な釣りを心から楽んでいるのは、あの日の根本水門がことのほか温かかったからに他ならない。

EIJ 松澤等

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イチワク会議

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